2009年フィリピン経済予測

 米国発の国際金融危機はフィリピンの実体経済に影響を及ぼし始めている。政府は今年の国内総生産(GDP)成長率の見通しを3.7〜4.7%とみているが、国内のエコノミストはどう予想しているのか。フィリピン大学経済学部のディオクノ教授と、証券会社ATRキムエンのエコノミストであるルス・ロレンソ氏の2人に聞いた。【吉岡由夏】

 ディオクノ教授とロレンソ氏は、輸出やフィリピン人海外出稼ぎ労働者(OFW)送金の伸びが鈍化し、インフレ率が一段と緩和するとの見方で一致した。ただ、ディオクノ教授が「輸出産業の低迷で失業者が増えるうえ、個人消費は減速する」と危ぐするのに対し、ロレンソ氏は「インフレ緩和が個人消費を下支えする」と楽観的な見通しだ。
 
 ■「景気回復後に備え人材育成を」ディオクノ教授
 
 今年のGDP成長率は2.9%を予想する。政府は今後、見通しを下方修正せざるを得なくなるだろう。
 
 国際金融危機による最大の影響は失業問題。電子部品や家具など労働集約型の輸出産業が打撃を受け、工場閉鎖や解雇が増える。外国直接投資(FDI)の落ち込みで、長期的な経済成長の芽が摘み取られ、雇用機会が減る。
 
 国内では毎年150万人が新たに労働市場に参入するが、これら新規参入者に就職口はない。失業率は昨年10月時点で6.8%だが、今年は9%に上昇するだろう。今よりも長時間働きたいと考えている「不完全就業者」も合わせると、失業者数は約1,100万人に達する。
 
 GDPの約1割に当たるOFW送金について、フィリピン中央銀行は今年は6〜9%の伸びを見込んでいるが、わたしは横ばいと予想する。GDPの約7割を占める個人消費は昨年から減速傾向にあり、今年は3%程度の伸びにとどまるだろう。
 
 政府が計画する3,000億ペソの景気刺激策については詳細が分からないためコメントできないが、インフラ整備は少なくともGDPの5%に当たる4,000億ペソが必要で、3,000億ペソをすべてインフラに充てたとしても不十分。土地収用や入札などに時間がかかる空港などの大型事業よりも、労働集約型の事業を優先するべきだ。また、税金還付によって消費を促進し景気を底上げする短期的政策も必要と考える。
 
 フィリピンを含む新興国の金融市場には、今年10〜12月にも欧米からの資金が戻り始めるかもしれない。フィリピンの実体経済が回復するのは早くて来年、あるいは2011年にずれ込むだろう。
 
 欧米だけでなく新興国でも、この経済危機を契機に人々の消費傾向は変わりつつある。自動車や家電を短いサイクルで買い換えていた時代は終わり、モノを作っても売れにくい時代になるだろう。政府は再生可能エネルギーや電気自動車、燃料効率型の都市づくりという「ニュー・エコノミー」の時代に向けて、技術開発や人材育成に力を入れるべきだ。
 
 ■「インフレ緩和の恩恵大」ロレンソ氏
 
 今年のGDP成長率は4.9%を見込む。世界的な景気低迷の中でこれだけの成長率を維持できる理由は、◇インフレ緩和◇低金利◇政府の財政出動◇今年下期の世界経済の底入れ――の4つ。もちろん世界経済が急激に回復することはないが。
 
 輸出は今年下期には回復に向かうが、通年では前年割れになるだろう。ただし、GDPに占める輸出の割合は低く、輸出が落ち込んだとしても大きな影響はない。
 
 OFW送金は今年は減速する。OFW送金の対GDP比が1割なのに対し、個人消費は7割。つまり消費のほとんどは国内で生み出された資金によるものだ。OFW送金の減速で個人消費に影響はあるだろうが、インフレ率の低下(今年は5.5%を予想)がそれ以上のプラス効果になる。
 
 景気を支えるには政府の財政出動が必要で、今年の財政赤字が政府予想の1,020億ペソに膨らんでも仕方がない。法人税が35%から30%に引き下げられたことで税収が減った分は民営化促進などで補うべきだ。
 
 法人税引き下げで企業は十分恩恵を受ける。ほかの税制優遇措置は必要ない。そんなことをすれば財政赤字はさらに拡大するだろう。
2009/1/13 NNA
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